なんとなく、お腹のあたりが重苦しい。 みぞおちの奥が、カタカタと鳴るようにすっきりしない。
そんな「胃の不調」を覚えたとき、私たちは真っ先に「胃薬を飲まなければ」「昨日、食べすぎたかな」と、胃そのものの不調(エラー)として片付けてしまいがちです。
もちろん、実際に暴飲暴食をしてしまったり、本当に胃そのものがお疲れで悲鳴をあげているケースもたくさんあります。
けれど、臨床の現場に立って20年。 日々、多くの患者さんの身体に触れ続けてきて、ハッと気づかされる事実があります。
胃の重さを訴えて当院にいらっしゃる方のなかには、みぞおち(心窩部・しんかぶ)のあたりをそっと撫でると、まるで硬い石でも入っているかのように、カチコチに強張っているケースがたまにあるのです。
胃の近くのエリアが不快だから、頭が勝手に「胃の調子が悪い」と思い込んでいるだけ。 実は、あなたの胃そのものには何も問題はなく、心身に溜まった別の「ノイズ(日常の澱)」が、みぞおちをギュッと縮こまらせている。そんな「気のせい(気の状態)」なサインである可能性が、胃腸薬を飲む手の手前に、静かに潜んでいます。

「心地よい状態」から、いつの間にかズレていませんか?
「私はストレスなんて溜めていない」「人間関係も仕事もうまくいっている」。
頭ではそう思っている人ほど、このみぞおちの強張りは、無言のまま静かに硬くなっていきます。
ストレスは、頭で自覚できるものばかりではありません。
他人に合わせて、自分の歩幅をほんの少しだけ乱したとき。
スマホのタイムラインに流れる、誰かの怒りの言葉を、無意識のうちに網膜が捉えてしまったとき。
私たちの脳は、自覚がないままに「戦闘モード(交感神経の異常な興奮)」へと切り替わります。 すると、呼吸は浅くなり、喉の奥が強張り、エネルギー(気)が上へ上へと昇って、みぞおちの気の巡りをピタッと止めてしまうのです。
世間一般が定義する「胃もたれ」や「消化不良」という病名(ラベル)に、自分の身体を無理に当てはめる必要は、一切ありません。
ただ、ご自身のみぞおちにそっと手のひらを当てて、静かに内省してみてほしいのです。
「私は今、自分にとって本当に心地よい状態から、少しだけ逸脱していませんか?」と。
足元にお守りの火を灯し、気を引き算する
みぞおちがカチコチに詰まっているときは、血とエネルギー(気)がすべて上半身に昇り、お腹や足元が冷えきっている「上実下虚(じょうじつかきょ)」と呼ばれる状態であることがほとんどです。
だからこそ、強張っているみぞおちに直接アプローチするのではなく、あえて一番遠い「足元」に小さなお守りの火を灯してあげましょう。
難しいツボの場所を探す必要はありません。
ご自身の指先で、まずは「足の甲(親指と人差し指の骨が交わるあたり」や、足首の「内くるぶしとアキレス腱の間の凹みのあたり」を、優しく、優しく撫でてみてください。
「なんだか、このあたりが他より少しヒヤッと冷たいな」
「右と比べて、左のこの部分だけ、ほんの少し皮膚がざらついている(カサついている)気がするな」
そうして、あなたの指先がキャッチした「冷たさ」や「左右での肌触り(ざらつき)の違い」こそが、あなたの身体が内側から「ここに温もりを据えて!」と叫んでいる、あなただけの生きたツボ(エリア)のサインです。
そこに、じんわりと温かいお灸を据えてあげる。
足元がじわーっと温まるにつれて、不思議なほどに、あのカチコチだったみぞおちの強張りがスーッと下に引き算され、お腹の奥が動き出し、呼吸が深くなっていくのを実感できるはずです。
お灸を据える時間は、病気を治すための無機質な作業ではありません。 世間の作った病名というラベルを一度はがして、「どうしたの?」と、自分の身体と優しくおしゃべりをする、静かな内省の時間なのです。

インターネットの外側にいる、本物のあなたへ
最後に、お灸の道具を寝室に迎える前に、画面の向こうにいるあなたと、どうしても交わしておきたい何より大切な約束があります。
私は一人の鍼灸師ではありますが、「あなた自身の生の身体」に、直接触れて診ているわけではありません。
現代は、スマホを開けば無数の「お悩みの解決策(ツボ)」が溢れ、私たちは知らず知らずのうちに、ネットの言葉に自分の身体の主導権を預けてしまいがちです。
でも、あなたの生きたツボは、スマホの画面の中にはありません。
もし、あなたが実際の鍼灸院に通われていて、そこで信頼する先生から「ここに据えてくださいね」とツボを教えてもらっているなら、この記事に書かれていることよりも、その目の前の先生の言葉を100%最優先にしてください。
実際にあなたの肌に触れ、あなたの呼吸のゆらぎを感じ取り、その手で確かめて必要だと選ばれたツボには、ネットのどんなに美しい解説も、絶対に敵わないからです。
ネットの海を漂う情報に左右され、頭がのぼせてカチコチになってしまうのをほどくために。
あなたの身体を、誰よりも親身になって一緒に見つめてくれる、そんな「本物の鍼灸師の先生」にあなたがリアルの世界で巡り会うことこそが、この備忘録の、何よりの願いです。
その出会いまでの、ほんのささやかな「つなぎ」として。
もし、今夜自分の身体とやさしくおしゃべりをするための小さなお守りに興味がありましたら、こちらの静かな調律の知恵を、寝室の隅にそっと置いておきます。
今夜は外側のノイズをすべて片付けて、自分をいたわる温かい夜を過ごしましょう。
(※お灸が熱いと感じた時の自動安全センサーの仕組みや、詳しいツボ探しのコツなど、お灸と仲良くなるための基本的なお話は、プロの目線で綴ったこちらの思索に詳しく置いておきます。)




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