202〇年の年明け早々、それまで窓の外に穏やかに広がっていた畑の土が掘り起こされ、3階建てアパートの建設工事が始まりました。
陽当たりの良さが自慢だった当院の環境ですが、アパートがそびえ立つにつれて、一日を通してほとんどが日陰という、冷たい影が静かに差し込んできたのです。
しかし、陽当たりが失われたこと以上に、私、そして当院を頼ってくださる患者さんにとって、心身を激しく揺さぶる巨大な「日常の澱」となったのは、建設工事に伴う「騒音被害」でした。
基礎工事の段階での大きな地響きや振動、作業中の大きな音は、仕事の性質上やむを得ないものです。それらは仕方のないことだと、自分に言い聞かせ、我慢をしていました。
ですが、本当の問題はそこからでした。
当院の建物のすぐ隣に、工事用仮設トイレと、作業員の「休憩場所」が設置されたのです。
朝から夕方まで、作業音が止んでいる休憩時間ですら、作業員の大きな笑い声や会話が院内に丸聞こえとなり、日中は一切「静かな時間」が存在しない状況が続きました。
さらに、頻繁な換気(ウイルス対策や空気の入れ替え)が欠かせない時期であるにもかかわらず、窓を開けると風向きによって、タバコの臭いが院内へと直接漂ってくることも……。
この3月から5月にかけてが、私の自律神経が最も激しく削られ、怒りとストレスで喉の奥がカチコチに強張り、夜もなかなか寝付けない、暗闇のような地獄の時期でした。
結果として、この騒音トラブルの結末は、金銭的な補償や形のある解決は得られず、物理的には「泣き寝入り」という形で終わりました。
しかし、私は一人の施術のプロとして、そして自分の人生を生きる一人の人間として、「泣き寝入り(敗北)」のまま心を腐らせるのをやめました。
同じように、理不尽なノイズや自分ではどうにもできない巨大な壁に突き当たり、どこに相談していいかも分からずに暗闇の中で一人で抱え込み、心身を壊しかけているあなたへ。
物理的な解決はしなくとも、「自分で自分のためにアクションを起こす」という、その主体的なプロセス自体が、いかにして脳の警戒モード(交感神経の暴走)を解き、自律神経を救い出してくれるのか。
私が泥沼の葛藤の中で手に入れた、自律神経を守り抜くための「生存戦略の地図」を、ここにそっと置いておきます。

当院として、一番「静寂」を譲れなかった理由
なぜ、作業員の会話や笑い声、タバコの臭いに、これほどまでに神経を尖らせ、対応を求めなければならなかったのか。
それには、当院を頼って足を運んでくださる患者さんたちの、非常に繊細な心身の状況があります。
一般の治療院のイメージとは少し異なるかもしれませんが、当院にいらっしゃる患者さんは、程度の違いはあれど、何らかの形で精神疾患や、自律神経の不調を抱えている方がとても多いです。 そうでなくとも、人生をかけた不妊治療を行っている方、体調がゆらぎやすい妊婦さん、小さな子供たちまで、幅広い方がいらっしゃいます。
共通しているのは、全員が「心身の強張りをほどき、リラックスする時間」を求めて、静かな環境を選んで当院に来てくださっている、ということです。
そんな繊細な方々が集まる空間にとって、男性の突然の大きな怒鳴り声や、下品な大笑い声、プライベートな会話が筒抜けになる環境は、それだけで極めて強い精神的ノイズ(澱)になります。
実際、施術の最中に屋外から突発的に響いた大笑い声が引き金となり、不安発作が起こりかける患者さんもいらっしゃいました。
「いつ、またあのノイズが聞こえてくるか分からない」という予期不安。
これは、心身を休めるべきベッドの上で、脳を常に「戦う戦闘モード」に強制的に固定してしまう、見過ごせない暴力だったのです。

大手の「マニュアル対応」という冷たい壁
我慢の限界が訪れた私は、施工主である旭化成ホームズの現場監督や営業担当に、現状の過酷さを何度も訴え出ました。 しかし、彼らから返ってくるのは、大手のシステム特有の、防衛に徹した「マニュアル対応(検品対応)」でした。
「お詫びは口頭でするが、書面での謝罪文の掲示は必要ないと法務部が判断した」 「直接的にこちらに責任があることは認められないので、患者さんのキャンセルに関する一切の支払いはできない」 「納得がいかないのであれば、弁護士を通して訴えてこい」
どれだけ当院の、そして患者さんの苦しみを言葉を尽くして説明しても、相手にとっては「違法性のない、許容範囲内の作業」という枠組みから一歩も出てきません。
お詫びの言葉を口にしながらも、その目は「これ以上、残る形で責任を認めるわけにはいかない」という会社の防衛線だけを見ている。
さらに、こちらがこれほど困っていると訴え、謝罪を受けた直後の時期であっても、一部の作業員の態度は変わりませんでした。窓のすぐ外で、ニヤニヤと笑いながらこちらを見つめてくる中年の作業員や、現場監督からの指示の電話に対して「はいはい、わかりましたわかりました(笑)」と、現場の緊張感を一蹴するような杜撰な下請けのやり取りを目にしたとき、私の中で、かつてない激しい怒りと、巨大な壁を前にした「無力感」が渦巻きました。
「なぜ、傷つけられ、実害を被っている私たちが、こんなにすり減らされなければならないのか?」
「個人経営の小さな治療院など、大企業にとっては、相手にする価値もない存在なのだろうか」
そうして、解決策も見つからないまま、一人で怒りを胸の奥に抱え込み、相手を憎み続けていたときが、私の人生の中で、最も気の巡りが滞り、自分の心身が内側から枯れていくのを感じる、一番危うい時期でした。
自律神経を救うため、私が起こした「4つのアクション」
「相手は変わらない。けれど、私は私の心身を、彼らのノイズに絶対に汚させない」
そう決意した瞬間から、私の目的は「相手を謝らせる、賠償を勝ち取る」ことから、「私の大切な自律神経と暮らしの主導権を、自分の手に取り戻すこと」へと180度シフトしました。
そのために、私が実際に足と頭を動かして実行した、具体的な「4つの防衛アクション」を整理します。

アクション①:作業員や警備員に、直接クレームを入れない
これはトラブルを悪化させるだけで、全くお勧めしません。
一度直接「もう少し静かにしていただけませんか」と声をかけたことがありましたが、何の挨拶もなく無視され、一時的に静かになってもすぐに元通りになりました。
直接の交渉は、逆上されるリスクを高めるだけです。
代わりに、「マナーの悪い現場の様子を、スマホで静かに録画・録音しておくこと」をお勧めします。これは感情論ではなく、客観的な「証拠」として、上の営業担当や現場監督に突きつける最も強力な武器になります。
アクション②:市区町村の「公害相談窓口(環境課など)」へ電話する
多くの自治体には、事業活動に伴う騒音や悪臭の苦情を受け付ける窓口(例:環境部環境課相談係など)が用意されています。
匿名での相談も可能ですが、位置関係から誰の苦情か相手に伝わるリスクはあります(私は伝わっても構わないので実名で出しました)。
電話をすると、早ければその日のうちに職員が現地へ状況確認に向かってくれます。
行政からの指導が入ることで、現場監督が名刺を持って挨拶に来るなど、初期の段階での一定の抑止力として非常に有効な一手です。
アクション③:現場監督に「実際の音」を自分の耳で確認させる
中国人の作業員が大音量で音楽を流し、大声で騒いでいた限界の時、私は現場監督を直接、当院の「治療室(ベッドの上)」に招き入れました。
そして、「あなたの部下たちの声や音楽が、患者さんが横たわるこの静かな空間に、どれほど不協和音として響いているか、自分の耳で聴いてくれ」と確認させたのです。
物理的な「実際の音圧」を体感させたことで、翌日、彼らは休憩場所を当院のすぐ隣から、別の場所へ移動させる対応をせざるを得なくなりました。
感情で訴えるより、相手に「現実」を突きつける方が、はるかに迅速に動きます。
アクション④:区の「無料弁護士相談」を利用し、施主へ「簡易書留」を送る
工事の騒音でしばらく休まれていた患者さんは戻りつつあったものの、作業員の大きな声や笑い声で来れなくなってしまっている患者さんは来院出来ない状況が続いていました。
騒音は迷惑でしたが、どうしようもない状況だったと思っていたのですが、上述の通り最初から配慮が出来ていれば患者さんが来れない状況にまではならなかった事がわかりました。
いきなり弁護士を雇うのは費用も敷居も高いですが、市区町村が実施している「無料法律相談(事前予約制・30分程度)」は非常に心強い味方です。
相談に向けて、時系列の事実と被害をあらかじめA4用紙に簡潔にまとめて臨みました。
その際、弁護士から得た最も大きな知恵は、「施主(地主)は、現場でこれほどの近隣トラブルが起きていることを、そもそも全く認識していないことが多い」という事実でした。
そこでアドバイスに従い、感情論を排し、発生している被害と事実だけを冷静に手紙にまとめ、施主に対して「簡易書留」で送付しました(いきなり内容証明郵便を送ると過剰な宣伝・攻撃と取られるため、書留に留めるのがコツです)。
施主が驚いて施工会社(旭化成ホームズ)に連絡を入れたことで、相手は責任逃れができなくなり、営業担当が直接こちらへ謝罪の対応に動くことになりました。
手紙を出して一週間程で、一応の謝罪は文面で届きました。
しかし、こちらが提示した具体的な被害内容については一切触れられておらず、施主との直接的なやり取りは手紙だけで終わりました。責任はすべて、旭化成ホームズ側へ引き継がれたのです。
「証拠」を掴むことの重要性:体感と録音のギャップ
この一連のやり取りの中で、私が最も「もっと早い段階からやっておけば良かった」と後悔したこと。 それは、「特に迷惑な作業員の様子を、スマホの動画で撮影して記録しておくこと」でした。
騒音が気になり始めた当初、何とか院内まで響く作業員の会話を「録音」しようと試みたのですが、ここで大きな壁にぶつかりました。
人間の耳が「うるさい、不快だ」と体感で感じている音量と、スマホのマイクが拾う平坦な録音データの間には、想像以上の大きなギャップ(音の伝わりにくさ)があるのです。
ネットで調べる限り、騒音レベルが「違法」と公的に認められるには、専門の測定器で極めて高いデシベル数が記録される必要があります。これらを正確に測定し、違法性のある騒音として法的に訴えるには、初期段階から弁護士を介入させる必要があり、個人には極めてハードルが高いのが現実です。
だからこそ、「動画で現場の状況を直接撮影すること」が何より有効でした。
どれだけ言葉で「うるさい」と訴えても動かなかった旭化成ホームズ側ですが、私が「指定された休憩場所を完全に無視し、タバコを吸って大声で話している作業員の決定的な現場動画」を撮影し、それを営業担当に送りつけたところ、彼らの態度は一変しました。
すぐに3度目の謝罪に飛んできたのです。
何度も同じマナー違反を繰り返す作業員たち、そして何度お詫びをされても現場を統制できない様子からは、大手企業のその場しのぎの管理体制が透けて見え、本当に不毛な時間を費やしているのだと、虚しさを覚えずにはいられませんでした。
録音データに残された、大手企業の「冷徹な3つの回答」
私は、旭化成ホームズの現場監督や営業担当との電話を含むすべてのやり取りを、録音データとして記録していました。今後、万が一弁護士を通して本格的に訴訟を起こすことを見据え、自分の身を守るために徹底して取った防衛策です。
私は営業担当に対し、「これまでのやり取りや記録しているものをブログに公開しても問題ないですか?」 と確認を入れました。
それに対する彼らの回答は、 「私どもにそれを止める権利はございません」 というものでした。
そこで、彼らがこちらの切実な訴えに対して下した、非常に印象的な「3つの回答(現実)」を、客観的な事実としてここに詳細に記録しておきます。
1. 患者さんのキャンセル料の補償について
【こちらの問い】 実際に作業員の発している会話が原因で、来院が難しくなりキャンセルせざるを得なくなった患者さんが出ている。この分のキャンセル料などは請求できるのか?
【旭化成ホームズ(法務部)の回答】 「そちらが提出された資料では、直接的にこちらに責任があることは認められないので、一切の支払いはできない」
これに対し、ではどのような情報や資料が足りていないのか、と重ねて確認しましたが、営業担当は「それは私がお答えできることではありません」の一点張りでした。
もし、この段階で私が高い費用を払って弁護士を代理人に立て、厳密な資料作成を行っていれば、請求が認められた可能性はあります。
しかし、繊細な患者さんたちの個人情報を開示することはできませんし、当日キャンセルや電話でのキャンセルの際、明確に「作業員の声が不快だからキャンセルします」という客観的な言質ややり取りの履歴をすべて残せているケースは、現実的にはほぼ不可能です。
個人事業主がこれらを完璧に証明することの、限界を思い知らされました。
2. 患者さんに対する謝罪文の院内掲示について
【こちらの問い】 一番迷惑を被っているのは、治療室で不快な思いをした患者さんたちである。患者さんに対して、旭化成ホームズ側からの書面による謝罪文を頂けないか。それを院内に掲示させてほしい。
【旭化成ホームズ(法務部)の回答】 「法務部の判断として、理由が明確にある訳ではないが、必要ないと判断した」
その場限りの口頭での薄っぺらな謝罪はいくらでもするけれど、後々厄介な証拠となる「書面」としては絶対に謝罪を残さない。
言葉は悪いですが、小さくか弱い個人事業主など、巨大企業を前にすれば、形に残る対応をするに値しない存在として、あからさまにあしらわれているような深い悔しさがこみ上げました。
彼らにとって、実害を被っている目の前の患者さんの苦しみは、「違法性がない範囲だから関係ない」という冷たい論理の前に、切り捨てられる対象に過ぎなかったのです。
3. 形ばかりの謝罪への納得のいかなさについて
【こちらの問い】 散々迷惑だと訴え、何度も同じマナー違反を繰り返されているにもかかわらず、そちらからは「違法性はない、許容範囲だ」の一点張りだ。納得がいかないなら、弁護士を通して訴えてこい、ということなのか?
【旭化成ホームズ側の回答】 「そういうことになります。職人への配慮が足りなかった点はあるが、患者さんが来なくなった理由にはならない」
患者さんから「職人の大声や笑い声が気になってリラックスできない、怖い」と直接訴えられている事実があるにもかかわらず、「来なくなった理由にはならない」と言ってのけるその感覚。
精神疾患を抱えている方、不妊治療に臨む方、妊婦さんやお子さんたちが、大人の男性の怒鳴り声や、下品な大笑い声が丸聞こえの環境で、安心してリラックスして施術を受けられると思っていること自体が、一人の医療従事者として、恐ろしく、そして悲しくて仕方がありませんでした。
この回答を録音データ越しに聞いた瞬間、私の中で張り詰めていた糸が、プツリと静かに切れました。
「ああ、この人たちとこれ以上話して、自分の貴重な命の時間とエネルギーを浪費するのは、あまりにもバカバカしい」と。
「泣き寝入り」は、能動的な勝利である
結果的に、法的な賠償も、書面での謝罪も得られませんでした。
結末だけを見れば、私の行動は「泣き寝入り」だったのかもしれません。
しかし、やれるべき手段をすべて調べ、自分の足で踏み出し、客観的な動画や録音を揃えて、大企業の防衛線の限界(法務部の冷徹なマニュアル対応)まで声を上げ尽くし、その中身を完全に見届けたとき。
私の心には、かつてあれほどカチコチに渦巻いていた「憎悪や怒り」が、綺麗に消え去っていることに気がつきました。 代わりに訪れたのは、「私は、自分の大切な空間と患者さんを守るために、持てるすべての力を使ってやり抜いた」という、静かで、圧倒的な納得感でした。
「相手が変わったか、勝てたか」はどうでもいい。
大切なのは、不条理な嵐の中で、「自分の意思で、自分のために声を上げ、行動を選んだ」という、その主体的なプロセスそのものです。

一人で抱え込み、我慢を自分に強いて、胸の中に澱(おり)を溜めること。
それこそが、自律神経を奈落へ突き落とす最大の原因です。
しかし、泥水をただ黙って飲み干すのをやめ、顔を上げて「一歩」を踏み出した瞬間、脳の警戒アラームは静かに鳴り止みます。
嵐が去った今、当院には、かつての静かで穏やかな時間が完全に戻ってきました。
心配していた患者さんたちも、何事もなかったかのように笑顔で戻ってきて、日々最高の施術に集中できています。本当にありがたいことです。
もし、今あなたが、自分ではコントロールできない理不尽なノイズ、あるいは大きすぎる壁の前に立ち尽くし、胸が締め付けられるような不眠の日々を過ごしているなら。
どうか、その苦しみを内側に抱え込んだままにしないでください。
戦って勝つためではなく、あなた自身が「納得して、今夜静かに眠るため」に、この生存の地図の、どれか一枚をそっと開いてみてください。
自分の暮らしの主導権を、不条理な他人に丸投げしてはいけません。
あなたがあなたのために起こした小さな一歩が、きっと、強張った自律神経をスッとほどく、温かい最初の風になってくれるはずです。
(※もし、あの騒音と不眠の過酷な日々のなかで、私が自分の心身を底から支え、今夜を着地させるために実践していた「もうひとつの小さな調律の知恵」に興味がありましたら、こちらの思索もそっと置いておきます。)
➔ [「気のせい」なゆらぎを、お灸でそっと整えて。]



コメント
私も旭化成ではありませんが マンション建設の工事により体調不良となり
1人で空き家になっていた実家に避難して金銭的にも多大な出費もあり
建設会社にいっても 弁護士や役所に相談しても結局泣き寝入りです
人としての当然の迷惑かけたら謝るという当然のことが建設関係にはないのでしょうかね
コメントありがとうございます!
大変な状況だった事、お察しします…。
「結局泣き寝入りするだろう」という風に思われてるのが本当に腹立たしいですよね…。
相手も仕事なのはわかりますが、これまでの日常を奪っているという感覚を持って欲しいですね。。
旭化成ホームズにはないのでしょうね。
私も路上駐車が迷惑で指摘したら、逆切れでお前は何様だ!と言われる始末
旭化成ホームズではそのような物言いできる人が出世するのでしょうね
旭化成ホームズの工事クレームは、ネットで色々出てきます。
この会社は根本的な問題なのでしょうね。工事現場で交通整理をする警備員に話をしましたが、他の現場(パナホーム)などとは雲泥の差のようです。
現場は上から言われた予算と日程でやることをしているだけですが、本社?が改善する気が無いようです。
役所に相談したら警察にと言われ、警察に相談したら、何かあれば迷わず110番で読んでくださいと言われました。
旭化成ホームズからの被害は、まずは110番するのが良いのではと思います。